装置家はマジッシャン

館長の散歩道

舞台は、驚くほど沢山のアーティストの力と技が結集して出来上がります。その労力と時間たるや大変なものですが、人は表現することをやめません。自分の想いを他者に届けたい、共有したいという欲求があるからです。さて今回は、僕に舞台の面白さを教えてくれた一人の装置家をご紹介します。1988年、東京下北沢の本多劇場で上演する、新作の舞台製作の時でした。美術は若き装置家の大田さん。芝居は宇宙船のコックピットの中で繰り広げられる場面設定でした。しかし多くの予算はかけられません。そこで、大田さんの真骨頂です。作業場に彼が持ってきたのは、お惣菜を入れる様々な形の透明の弁当箱の山でした。そして大きな半透明のビニール幕を床に広げて、そこにセロテープで弁当箱を留めていきます。続いてカラフルな蛍光塗料で弁当箱に筆でタッチを入れました。「はい完成です!」「え~?これがコックピッㇳ?」さて、いよいよ劇場に搬入です!弁当箱が付いた半透明のビニール幕をスタッフが舞台奥にぶら下げました。「ハーイ!暗転!ライトオン!」なんと宇宙船のコックピットの出現です!大きな拍手と歓声。まさに装置家はマジッシャンでした。